。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅴ・*・。。*・。
BGM代わりの生演奏はいつの間にか二曲目に入っていて、タイトル名は知らないけどどこか懐かしい曲が流れていた。
その歌を口ずさみながら玄蛇が椅子の背もたれに腰を置く。
「驚いた。どこにでも現れるのね」
慌てて振り向き、玄蛇を見上げると、こいつはあたしの了承も得ずに隣の席の椅子を引いた。
「何勝手に座ってるのよ」
いつもならそう言ってる筈なのに、またもあたしの喉は変な風に詰まって言葉を発することはなかった。
ただただ呆然とその行動を見守ることしかできない。
考えたら、玄蛇がこの場所に現れることぐらい想定できたものの、それを失念していたあたしが迂闊だった。
「今日は非番なんだ」
玄蛇はそう言い、「ウォッカ。ダブルで」と、店員にオーダーしている。
「……めずらし。あんたが飲むなんて……」
「私にだって飲みたいときはあるさ」
玄蛇は軽い調子で言って、運ばれてきたグラスを勝手にあたしのグラスに合わせて乾杯。
少しの間沈黙が流れた。
変な感じだ。前までは沈黙さえも苦じゃなかったのに、(と言うかあたしが何か喋らなくても玄蛇の方からぺらぺらお喋りしてきた)
今は―――この重苦しい空気が苦痛だ。
やがて
「はじめてだね。こうやって外で二人で飲むのは」
玄蛇の方から口を開いた。
重苦しい沈黙はこうやって解けたが、あたしは自ら沈黙を呼び寄せた。
唇を一文字に結んで、ただただ窓の外の宝石箱のような夜景を睨み下ろしていると
「鷹雄 響輔と――――」
沈黙をどうしても破りたいのか、あたしが今もっとも反応する言葉を玄蛇は口についた。