哀しみの瞳
(小林)
「吉川さぁーん!赤ちゃんですよ!
元気な…男の子です!……」


理恵は、聞こえていないのだろうか!



理恵は、ずっと長い夢をみていた。

秀が向こうに立っていた。その子は?私の子かしら?男の子のようだ。とぼとぼと、秀の方へ向かって歩いている。理恵は、その子を捕まえようとするのに、いっこうに捕まらない。理恵は、何とか言って声を掛けて引き止めようとするのに、その子は、どんどん遠くなる。理恵の声が聞こえないのか!理恵は悲しくて、泣いているのに、振り向いてもくれない。
「ひでぇっ!お願い!その子を、連れて行かないで!待ってぇー」秀もその子も、何も答えてくれない。


とっ、すると、急にその子が、理恵の方に振り向いてくれた。
5、6才ぐらいであろうか。その子は、はっきりと理恵にも分かるように、顔を見せてくれた。

「あああっ!秀っ………」



理恵の横に赤ちゃんが……

「おぎゃぁ―おぎゃぁ―」



(重子)
「理恵ちゃん!目をさましてちょうだい!貴女の赤ちゃんよ!赤ちゃんが泣いてるわ!」
理恵の手を握りながら、重子は泣いている。
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