哀しみの瞳

誕生

11月14日午前2時


理恵は、分娩室にいた。激しく押し寄せる陣痛に理恵は苦しんでいた。

看護婦達も慌ただしく、理恵を細かく見守っている。

理恵は、自然分娩を希望した。本人の体力を一番に必要とする。小林の不安は拭いされない。途中で気を失わないでくれ、と心から願った。

何とか順調に子供が降りて来てくれたが、理恵の体力が限界にきていた。


(助産婦)
「先生!あと少しなんですが…
吉川さんっ、もうちよっと!最後よ!赤ちゃん、そこまできてるから!頑張って!!」


(小林)
「吉川さんっ!はいっ、顎引いて!最後にもう一回、いきんでぇ!」



(理恵)
「ひでぇっ、助けて…お願い!ひでっ、赤ちゃんを…赤ちゃんを。守って!………うーん」


(小林)
「そうだっ、はぁーい、そうそう!」



後産が終わる頃は、理恵はもう、意識を失っていた。
体中の力が入らない状態になっていた。


(小林は、こうなる事までは、想像はしてはいたが、…哀れと思う程の姿であった。
最後に叫んだあの言葉…「ひでぇっ、助けて…」とは、もしかして、子供の父親だろうか?こんなにまでして、愛を貫き通せるものなのか?
小林にはまだまだ分からない感情であった。この女性を此処まで強くしたものは、子供への母性愛?それとも、やはり、その男への愛なのか?
このまま…目を覚まさなかったら~)

(看護婦)
「先生!!血圧が…」
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