アイドルとボディガード


別れ際、桐生へお礼を言う。


「ありがとう、なんか色々吹っ切れた」

「それは良かった。もうあんな電話してくんなよ」

「普通に会ってくれないなら、また同じことするかも」


そう言って微笑むと、桐生は引きつるように苦笑する。
私が本気だってことに気付くと、彼は観念したようだ。


「……分かったよ、普通に会うから」

「本当っ?」

「あぁ」

「電話また繋がるようになる?メールもできる?」

「藤川さんを介してな」

「えー、なんでー」

「アイドルとしての節度と秩序を守れってことだ」


節度?秩序?
思わず頭の上でハテナが浮かんでしまう。





その言葉の意味が、藤川さんを介して改めて思い知らされることになろうとは。


「一日メールは五通まで、電話は二日に一回ね」

「何それ!」

「桐生君と決めた制限だよ」

「厳しすぎでしょ!」


ぎゃーぎゃー、喚きたてるも藤川さんは聞く耳もたず。


「連絡取り合ってもらえるようになっただけいいでしょ?」

「うっ」


返す言葉もない。

本当、連絡取り合えるようになっただけでも良かった。


芸能人生を懸けた、一世一代の賭け。
振られたけど、そんな恋ができて良かったとさえ思う。


「恋愛御法度なアイドルの恋を手伝うマネージャーなんて藤川さん位だね」

「しょうがないでしょ、千遥ちゃんほっとくと何するか分かんないんだから」

「ごめんね。あたし、これからも仕事頑張るから」


そう言うと藤川さんは、もう本当しょうがないなと言って呆れるように笑った。


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