[中]余命24時間


「…いいじゃん。
少しくらい見てたって……」



不意に。

本当に、耳を澄ましていないと聞こえないくらいの、声で。

翔が静かに呟いた。


俯いたまま、寂しげな表情を見せる翔。


…そう、だ……。

何気ない会話。
当たり前の日常。

それらに囲まれすぎていて、忘れていたけれど。


あたしたちには、もう時間がないんだ。



「…わかった。」



しぶしぶ頷き、力を込めていた腕をドアから離す。


部屋の奥のタンスへと足を進めて、引き出しをそっと引く。


別に、ゆっくり引く理由なんてないんだけど。

翔が見ている。

そう考えただけで、手が震えた。


カタン…



タンスを引く音でさえも、あたしの耳には大きく響いて、

その音はなかなかあたしの中から消えようとしてくれない。


うしろを見なくても、わかってしまう。


翔の視線が。


あたしが動く度に翔の視線も動くのがわかる。


だからこそ、心臓の音は、いつにも増して早くて。


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