虫の本
 無造作に“それ”を地面に投げ捨てる再生天使。
“それ”は軽く咳き込むと、「痛いなあ」と恨み言を吐き出した。
 続けて、俺と目が合う“それ”。
「なあんだ、大樹ってばまだ生きてたんだ。律儀だねえ……でも、そう言う所は嫌いじゃないよ」
 ────。
「それに、貴方」
「再生天使リピテルだ、そういう事になっている」
 ────。
「ふうん……天使って本当に居るんだねえ」
「“余所者”ではあるがな」
 ────。
「なあるほど……ま、“私”を選んでくれた事には感謝するけど、どうせならもっと面白い人物の方が良かったかな? これ、本当にただの人間じゃない」
「他の者を先にしても良かったのだがね?」
 ────。
「あ、嘘嘘! ただの人間万歳! 普通サイコー! リピテル素敵ー!」
「……調子の良い奴だな」
 ────。
「うん、大樹にもよく言われるかな。えへへ」
 ────……。
「そんな訳で……ただいま、大樹。うーん、どちらかと言えば、おはようかな?」
 由加だった。
 見た目はもちろん、口調も、仕草も、性格も、記憶さえも、全てが由加そのものだった。
 由加が戻ってきた……?
“再生”したというのか!?
 仮面のような微笑みを向けてくる由加に、俺の頭は再び混乱の渦中に叩き落とされる。
「う……そだ……」
 何が嘘なのかも分からなかった。
 分かっている事は、再生天使を自称する男は俺の命なんか使わなくても“再生”とやらが出来る事、そして結果的には由加が“再生”されてしまった事。
 この二点に尽きる。
 確かにこれなら、俺が殺されてやる必要は無い事になる。
 けど、あの糞天使が吐いた嘘って、こういう事だったのだろうか?
 本当に、悪戯に俺をからかって嘘を吐いただけなのか?
 その冗談に付き合う形で、俺は死ぬ覚悟までさせられたっていうのか?
 いったい何の為に……?
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