路地
「気分はどうですか?」
いつもの何もかもが真っ白な部屋とは違いちゃんと日の当たるテラスの一角に置かれたソファに美織を座らせ精神科医の城崎は柔らかいトーンで話しかけた。
「拘束帯…ない。」
美織は我が身を縛り付けていたものがない事に却って居心地の悪さと不安を覚えていた。
「ああ、あれね。だってもう君には必要ないでしょ?どうぞ。ローズマリーだけど。」
同じくテラスの片隅に用意されていたティーセットにハーブティーを丁寧に注ぐと城崎は美織の前にそっと置いてやった。
「あ…りがと…ございます。」
美織は目の前に置かれたティーカップに口を付ける事はせずただぼんやりと薄ピンク色した液体をじっと見つめた。
「お義父さん、自白したって。全部。」
「そう…です、か…」
「最後まで見つからなかった、お母さんの頭部。君の言った通り工場の前に置いてあった大きなドラム缶の中から出てきたって。灯台もと暗しだよね。」
精神科医と言うものは何事に対しても何事も無いような体(てい)で話すものなのか、それとも城崎が元よりそういう人物なだけなのか…美織はあまりにも事なさげに話す城崎に対してそんな思いを抱いた。
「さて、精神科医としての判断だけど君はもうここにいる必要はない。」
「えっ…」
「驚く事じゃないでしょ?自分の事は自分が一番分かってる。違う?」
ほんの少し、ほんの少しだけ語気が強くなったのは気のせいだろうか。美織はこれ以上の長居は必要ないと観念する事にした。
「先生、お手を煩わせ申し訳ありませんでした。」
美織は椅子に座ったままの姿勢で深々と目の前に座る城崎に頭を下げた。