学園マーメイド


「ん?ああ、最近はそんな気分じゃなくて。それに陸嵩が一緒に登校しようって言ってくれたから、せっかくだし登校したいなって思ってさ」


事実、朝は水に浸かる気分ではなくなった。
以前に比べるとそれはすごい変化で。……たぶん、水泳より他に大事だと思えるものを見つけられたのが大きな理由だと思う。
靴の踵を入れながら告げると、彼は目を丸くした次には嬉しそうに笑って見せた(顔が少し赤い気がする)。


「……そっか、そっか!うん、俺もすっげえ嬉しいよ。蒼乃と登校できて」


すっげえ嬉しい、とまでは言ってなかったがまあ、いいだろう。
私も現にこの時間を好きだと思ってしまっているのだから。


「ふふふ」
「……?気持ち悪いなあ」
「なんとでも言うといいよ。俺は今すっげえ幸せなんだから」


冗談っぽく言うと彼も冗談っぽく返す。
彼は今幸せらしい。
確かに顔はにこにこと笑顔を貼り付けて、顔も赤くなっている。
そうか、幸せなのか。何故か彼が幸せだと私も幸せだと感じてしまう。
可笑しい。でも、私も幸せなのだ。

教室に入ると、女子が群れを作って何か話しているのが目に入った。
だがいつもの事だ。気にせず席に着こうと思った、が。


「…………」


椅子がない。
辺りを見回して見ると、教室の後ろの方にぽつんと置かれた椅子を発見。
たぶん、(いや絶対)自分の椅子だ。
淡々とその椅子を持ち上げ、席へと戻すとそこに座り、溜息を一つ。
……やっぱり嫌がらせがまだ終わったわけじゃあなかったんだな。
淡い期待は一気に打ち砕かれたのだった(ついでに朝の幸せな気分も)。
誰かの舌打ちが聞こえた気がしたけど、気には留めなかった。


「ムカつく……、ちょっとは表情に出せよ」
「冷たい女」


ぶつぶつと何かを言い出した女子達。

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