不器用なシンデレラ
「雅代さんに習字を習いましたから」

 俺がそう言うと、雅代さんは嬉しそうに微笑んだ。

「あなたが生徒で誇りに思うわ」

 雅代さんは俺達の目の前で証人欄に署名してくれた。

 印鑑を持っていたところを見ると、お袋が上手いこと言って用意してもらったに違いない。

 雅代さんが署名すると、今度は親父がさらさらと何も言わずに署名していく。

「花音ちゃん雇って正解だったな、母さん」

「ふふ、孫は半分諦めてましたけど、これから結婚式の準備でも始めようかしら」

 専業主婦のお袋は余程暇なのか、結婚式の情報誌を持ってにっこり笑う。

 いつ買ったんだ?

 気が早すぎだろう。

 花音本人はまだ何も知らないのに。

「花音無視して暴走しないで下さいよ」

 俺は夢見る少女のような表情をしているお袋に釘を差す。
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