水平線の向こう側
度
「じゃあね沙耶、また明日」
「うん。ばいばい」
授業が終わって教室から人がいなくなっていく中、友達とあいさつを交わして別れた。飯田君はもうとっくのとうに部活へ行ってしまった。今日も一度も目が合う事は無かった。部活へ行く前も、一度足りともこっちを見ることはなく。一体私たちの関係をどのくらいの人が知っているのだろう、と思う。飯田君は自分から言ったりする人じゃないし、私も同じタイプだし、現状がこれだからなんとなく言えない。最初こそは付き合い始めたと何人かの人には言ったけど、それも多分忘れられているのではないかと思う。だって、本当に何もないから。知ってる人からは「別れたの?」って聞かれる事もある。その時は別れてないよと返すけど、付き合ってるよとは言い返せなかった。あまりにも不安定すぎる関係だ。たまにあいさつを交わしたり、その場でばったりとはち合わせたら少し話すくらい。そんなのどこのクラスでもどの人でもするやり取り。それすら最近は無くなって、自分でも自然消滅なのではないかと疑うくらいだった。
「あれ、荒川」
「森山君」
「飯田はもう行った?」
教室の後ろのドアから声がして、そっちを向けば森山君が私に向かって少し大きな声で言った。もう行ったよ、と私も森山君に届くような声の大きさで返事を返した。
「そうか…で、荒川は何してるんだ?」
「別に…ぼーっとしてただけだけ」
飯田君のこと考えてたなんて森山君には言えない。森山君はふうん、と興味があるのかないのかよく分からないような返事をして、こちらへ足を進めてきた。それに少し驚く。なんでこっち来るの?
「なら少し話そうぜ」
「え…部活は?」
「今日は自主練。聞いてないのか?」
誰からとはあえて聞かないのが森山君らしい。聞いてないよと何とも思っていないふりをして返事をしたけれど、心はずきっと僅かな痛みを感じていた。森山君は、私と飯田君が付き合っていると知っている。というか、付き合う前に私が森山君に飯田君のことを相談していた節がある。森山君は一年生でクラスが同じだった。この学校は何故か2、3年に上がるにつれてクラス替えを重ねたが、一年生の時以来森山君とは同じクラスになっていない。だけど一年生の時委員会が同じだったこともあって、森山君との友好関係はいまだに続いていた。クラスが遠いからあんまり会わないけど、たまに会えば話すし、その夜メールをしたりもする。ごく普通の友人として仲良くしてくれる森山君。飯田君を好きになって、同じ部活だからとそれを相談して、背中を押してくれたり時には力を貸してくれたりした。付き合う事になって、森山君はおめでとうと嬉しそうに言ってくれた。多分ずっと応援しててくれたはるちゃんと同じくらいに、もしかしたらそれ以上かもしれない。それ以降も飯田君とはどうなんだとかちょくちょく聞いてきてくれたりしたし。
「なんか話すの久々だね」
「そうか?」
それでも、それ以降の事は話してはいない。付き合ってしばらくは、聞かれてもいないのに私が今どれだけ幸せかと言う事を熱弁していたけど、それまでだった。森山君は飯田君とすごく仲が良い。そんな森山君に飯田君に対する不安を話しまくるのもどうかと思うし、第一森山君もバスケ部で飯田君と一緒にずっと頑張ってきたのだ。当然風無さんとも仲が良いし、その子の事が好きなんじゃ…とか、言えない。なんとなく。マネージャーに嫉妬してるのかよって呆れられるに決まってる。
「最近はどうなんだ?」
「…んー、普通かな」
嘘は言っていない。私が不安になっているだけで、飯田君はごくごく普通でいつもと変わらないままだ。森山君から視線を逸らしながら言ったから、疑問に感じたのだろうか。森山君は何も答えずに、わざわざ逸らしたのに、視界の中に自ら顔を近付けてずいっと入りこんできた。
「なんか、最近変じゃないか?」
「変じゃないよ」
「本当に?」
「うん」
「本当に?」
「…うん。あとちょっと近いかな」
少しだけたじたじになりながら体制を後ろへずらした。森山君も私の言葉を聞いて体を引いた。ていうか、何でそんなに疑うんだろう。最近変と言われても、最近森山君とあってないんだから何とも言えないじゃないか。まあ、それが恐らく飯田君との事を言っているんだろうとはなんとなく察したけど。
「ほら、今日も自主練行くんでしょ?」
「ああ。でも荒川と話してからな」
がたんと椅子を引いて私の前の席に座る森山君。森山君って恋愛に関して鋭いから困る。森山君には何でも見透かされてしまいそうな気さえする。森山君と話せる事は嬉しいけど、今ばかりは早く部活へ行って欲しいと思った。私の醜い嫉妬心なんて、誰にも知られたくない。
否定の言葉がうまれる前に
「うん。ばいばい」
授業が終わって教室から人がいなくなっていく中、友達とあいさつを交わして別れた。飯田君はもうとっくのとうに部活へ行ってしまった。今日も一度も目が合う事は無かった。部活へ行く前も、一度足りともこっちを見ることはなく。一体私たちの関係をどのくらいの人が知っているのだろう、と思う。飯田君は自分から言ったりする人じゃないし、私も同じタイプだし、現状がこれだからなんとなく言えない。最初こそは付き合い始めたと何人かの人には言ったけど、それも多分忘れられているのではないかと思う。だって、本当に何もないから。知ってる人からは「別れたの?」って聞かれる事もある。その時は別れてないよと返すけど、付き合ってるよとは言い返せなかった。あまりにも不安定すぎる関係だ。たまにあいさつを交わしたり、その場でばったりとはち合わせたら少し話すくらい。そんなのどこのクラスでもどの人でもするやり取り。それすら最近は無くなって、自分でも自然消滅なのではないかと疑うくらいだった。
「あれ、荒川」
「森山君」
「飯田はもう行った?」
教室の後ろのドアから声がして、そっちを向けば森山君が私に向かって少し大きな声で言った。もう行ったよ、と私も森山君に届くような声の大きさで返事を返した。
「そうか…で、荒川は何してるんだ?」
「別に…ぼーっとしてただけだけ」
飯田君のこと考えてたなんて森山君には言えない。森山君はふうん、と興味があるのかないのかよく分からないような返事をして、こちらへ足を進めてきた。それに少し驚く。なんでこっち来るの?
「なら少し話そうぜ」
「え…部活は?」
「今日は自主練。聞いてないのか?」
誰からとはあえて聞かないのが森山君らしい。聞いてないよと何とも思っていないふりをして返事をしたけれど、心はずきっと僅かな痛みを感じていた。森山君は、私と飯田君が付き合っていると知っている。というか、付き合う前に私が森山君に飯田君のことを相談していた節がある。森山君は一年生でクラスが同じだった。この学校は何故か2、3年に上がるにつれてクラス替えを重ねたが、一年生の時以来森山君とは同じクラスになっていない。だけど一年生の時委員会が同じだったこともあって、森山君との友好関係はいまだに続いていた。クラスが遠いからあんまり会わないけど、たまに会えば話すし、その夜メールをしたりもする。ごく普通の友人として仲良くしてくれる森山君。飯田君を好きになって、同じ部活だからとそれを相談して、背中を押してくれたり時には力を貸してくれたりした。付き合う事になって、森山君はおめでとうと嬉しそうに言ってくれた。多分ずっと応援しててくれたはるちゃんと同じくらいに、もしかしたらそれ以上かもしれない。それ以降も飯田君とはどうなんだとかちょくちょく聞いてきてくれたりしたし。
「なんか話すの久々だね」
「そうか?」
それでも、それ以降の事は話してはいない。付き合ってしばらくは、聞かれてもいないのに私が今どれだけ幸せかと言う事を熱弁していたけど、それまでだった。森山君は飯田君とすごく仲が良い。そんな森山君に飯田君に対する不安を話しまくるのもどうかと思うし、第一森山君もバスケ部で飯田君と一緒にずっと頑張ってきたのだ。当然風無さんとも仲が良いし、その子の事が好きなんじゃ…とか、言えない。なんとなく。マネージャーに嫉妬してるのかよって呆れられるに決まってる。
「最近はどうなんだ?」
「…んー、普通かな」
嘘は言っていない。私が不安になっているだけで、飯田君はごくごく普通でいつもと変わらないままだ。森山君から視線を逸らしながら言ったから、疑問に感じたのだろうか。森山君は何も答えずに、わざわざ逸らしたのに、視界の中に自ら顔を近付けてずいっと入りこんできた。
「なんか、最近変じゃないか?」
「変じゃないよ」
「本当に?」
「うん」
「本当に?」
「…うん。あとちょっと近いかな」
少しだけたじたじになりながら体制を後ろへずらした。森山君も私の言葉を聞いて体を引いた。ていうか、何でそんなに疑うんだろう。最近変と言われても、最近森山君とあってないんだから何とも言えないじゃないか。まあ、それが恐らく飯田君との事を言っているんだろうとはなんとなく察したけど。
「ほら、今日も自主練行くんでしょ?」
「ああ。でも荒川と話してからな」
がたんと椅子を引いて私の前の席に座る森山君。森山君って恋愛に関して鋭いから困る。森山君には何でも見透かされてしまいそうな気さえする。森山君と話せる事は嬉しいけど、今ばかりは早く部活へ行って欲しいと思った。私の醜い嫉妬心なんて、誰にも知られたくない。
否定の言葉がうまれる前に