おててがくりーむぱん2


鞄に書類を仕舞っていた佑司が、顔を上げ光恵を見る。
作業中に入れた冷房もあまり効いていないのか、汗ばんで頬が少し赤みがかっていた。


佑司は昔のように照れたような笑みを浮かべ、それから「久しぶり」と言った。


「うん、久しぶり」
光恵の胸にも、なんだか温かいものがこみ上げる。


「ここで、講師してるんだ。知らなかった」
佑司はその場で動かない。光恵に近づくのを恐れているようにも見えた。


「うん、そう」
光恵にもその緊張が伝染したようだ。光恵も佑司に歩みよれない。


「劇団に就職しなかったっけ?」
「うん、去年辞めちゃった。正確に言うと専属を辞めたってことなんだけど。頼まれれば書くって感じ」
「そうか……」
「そっちは? 電気メーカーの営業じゃなかったっけ?」
「うん、営業だよ」
「でも、こんな技術っぽいことして……」


光恵が言うと、佑司が仕方ないというように笑う。


「こんな作業、たいしたことないから。営業でやっちゃうんだ。俺はシステム開発部門の営業」
「へえ、畑違いにも思えるけど」
光恵が言うと、佑司も「だよな」と言って笑った。


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