おててがくりーむぱん2


暑い夏の日。
孝志は、名刺に書かれていた会社の前に立った。


大手企業の本社。
昼時の日本橋は、ランチに出るサラリーマンとOLでにぎわっている。


孝志は携帯を取り出し電話をかけた。


ここは、余裕があり、成功している「大人バージョン」で責めよう。
この間はちょっと取り乱しちゃったから。


「はい、キャノル、システム開発部です」
「鈴木さんはいらっしゃいますか?」
「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「佐田です」
「お待ちくださいませ」


保留音が流れる間、孝志は頭の中のスイッチを入れた。


俳優の佐田孝志だ。


「お待たせいたしました。鈴木です」
「佐田です。先日は失礼いたしました」
「ああ、佐田さん。こちらこそ、失礼しました」
「今、お時間ありますか? 少しお話させていただきたいんですが」
「大丈夫ですよ。今どちらに?」
「会社の前にいます」
「……わかりました。じゃあ、昼休みを取りますので、今からうかがいます」
「はい」


孝志は電話を切ると、ふうと息を吐く。
でもこれで終わりじゃない。
これからが本番だ。


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