木曜日の貴公子と幸せなウソ
私は下を向いたまま、静かに首を横に振った。
先輩は片山姓じゃなかった。
独身で結婚の経験もない。
そして、エミちゃんの父親でもなかった。
……じゃあ、7年前の事は一体何?
それに、エミちゃんのお母さんとの関係は……?
「……7年前、私との約束をキャンセルして、エミちゃんのお母さんと一緒に歩いてる先輩を見ました」
「……うん」
「私と会っている最中に電話で呼び出されて、出て行きました。その時、赤ちゃん服を見ながら、先輩は言っていました。……父親になれる自信、全然持てないと……っ」
思い出したら涙があふれ出て来た。
先輩が無言で私の隣に腰をおろした。
「そうか……。そこから萌の誤解が始まったのか」
「誤解?それが誤解だったとしても、先輩はケータイのストラップを外してました!カフェで見た時、ケータイにはストラップが付いていなくて……」
「……あるよ。ちゃんと取ってある、今でも」
そう言うと、先輩はソファから立ち上がり、隣の部屋のドアを開けた。