木曜日の貴公子と幸せなウソ
「いった……。先輩、いきなり何……」
「ゴメン。そんなにびっくりするとは思わなくて」
「び、びっくりしますよ……」
唇がヒリヒリと痛む。
私はポケットからハンカチを出して、唇をおさえた。
「ヤケドした?本当にゴメン」
「大丈夫。ちょっとヒリヒリするだけだし」
「責任とるから」
「え?」
先輩はそう言って、おさえていたハンカチをそっと取って、そのまま私に顔を近づけてキスをした。
あっという間の出来事に、目を閉じる事も忘れてしまったくらい。
「消毒」
「せ、せんぱい……っ!」
誰かに見られたのではと思い、恥ずかしくてうつむく私。
「大丈夫だって。ここ、柱の影だし」
「え?」
顔をあげると、確かに今いる席は柱の影で、誰かに見られた様子はなかった。