アルマクと幻夜の月



アスラを見るスルターナの怯えたような目を見ると、腹の底からふつふつと怒りが湧いてくる。


――ナズリを死へ追いやったくせに、自分は死を恐れるのか、と。


「あたしがなぜこんなことをするのか、あんたにはわかっているはずだ」


低い声でアスラは言う。


「母上は、あんたに何もしなかった。あんたに決して逆らわなかった。

日の当たらない暗い部屋へ押し込まれても、食事を用意してもらえなくても、あんたの陰口一つ言わなかった。

あんたが正妃で、自分が妾であることを心得ていた。

あんたに殺されるほど憎まれるようなことは、何もしなかったはずだ」



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