アルマクと幻夜の月
「違う」
そう言った声は、気をつけなければわからないほどわずかに、震えていた。
「違う。そうじゃない。……すまなかった」
ただ、また失うのは嫌だったんだ。小さな小さな声でそう言った彼は、普段のイフリートよりも小さく見えた。
なぜこんなにも動揺しているのか、アスラにはわかるはずもなく。
一体どうしたんだ、と尋ねたくて、しかし尋ねてはいけない気がして、アスラは結局イフリートの肩を乱暴に叩いた。
「さ、もういいだろう。この話は終わりだ。スリの小僧を探しに行くぞ」
アスラの言葉に、イフリートはまだすこし動揺を引きずった様子ではあったが頷き、「こっちだ」と言って歩き出した。