アルマクと幻夜の月
「い、いる!」
「じゃあ決まりだな。行こう」
その言葉を合図に、シンヤについて三人は歩き出した。
アスラの隣でイフリートが小さなため息をついたが、アスラは無視してシンヤに話しかける。
「なぁ、マタルの街はずいぶん貧しいようだけど、街中こんななのか?」
すると、シンヤは「いや、」と首を振った。
「そうでもないぞ。街の中には貴族の豪邸なんかもいっぱいある」
「え、そうなのか」
「この街ではな、庶民はいつ飢えて死ぬかわかんねぇほど貧しいけど、貴族は王都の貴族にも負けないほどの金持ちばっかだ。領主はそいつらに金もらってるから、俺ら貧民のことなんか頭にねぇ」
口調は淡々としているが、シンヤの目に静かな怒りが燃えているのを、アスラは見た。
その表情は、十一か二かくらいの少年にはおよそ似つかわしくない。