アルマクと幻夜の月



アーデル、というのが、あの少年の名なのだろう。

生まれながらにして絶望の最中にあった少年たちを集め、〈イウサール〉という希望を与えた。

そんな少年が、なぜあんな惨たらしい死に方をしたのか。


再び歩きだしながら、シンヤがその答えを語った。


「貴族の屋敷に忍び込んだ夜、俺をかばって衛士の矢に足をやられた。それでも俺や他のみんなを逃がして、自分だけ捕まって、打ち首だ」


「な……っ! 盗みに入っただけで打ち首だと!?」


盗みであれば、ひどくても笞(ムチ)打ちくらいが妥当だ。

王都のすぐ隣で、マタルの領主がここまで勝手をやっていることに、アスラは愕然とした。


「あんたはわかんねぇだろうけどな、ここはそういう町だよ」


いや、たぶんここ以外もそう変わんねぇだろうな。

シンヤはそうつぶやき、立ち止まった。

いつのまにか宿の前に着いていた。



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