アルマクと幻夜の月



領主に怒鳴られ、アスラはおそるおそるといったふうに扉の方へ近寄っていく。


「……誰か、そこにいるのですか?」


アスラの問いかけに、答えるものはない。

ただ、ドンドンと扉をたたく音がするだけだ。


業を煮やした領主がつかつかと歩いてきて、アスラを押しのけると、「そこにいるのは何者だ!」と怒鳴った。


「誰か知らんが、こんなことをしてタダで済むと思うなよ! 守衛は何をしている! 不埒者を捕らえよ!」


その声が不気味な静けさに消えた、そのとき。


――キャハハハハハハハハハハハッ!


甲高い子供の笑い声と、騒がしく走り回る足音が、扉の外からけたたましく響きわたった。


「ヒイィ……ッ」


領主が顔をこわばらせ、蹴られた豚のような情けない声を上げる。

アスラも「いやっ、何なの……!?」と短い悲鳴を上げて、窓の方へ後ずさった。


その間も子供の笑い声は響く。

上からも、下からも。――そして。


ふっ、と。

小さな風の音と共に、部屋の中に一つだけ灯っていたランプの炎が消えた。



< 216 / 282 >

この作品をシェア

pagetop