アルマクと幻夜の月
領主に怒鳴られ、アスラはおそるおそるといったふうに扉の方へ近寄っていく。
「……誰か、そこにいるのですか?」
アスラの問いかけに、答えるものはない。
ただ、ドンドンと扉をたたく音がするだけだ。
業を煮やした領主がつかつかと歩いてきて、アスラを押しのけると、「そこにいるのは何者だ!」と怒鳴った。
「誰か知らんが、こんなことをしてタダで済むと思うなよ! 守衛は何をしている! 不埒者を捕らえよ!」
その声が不気味な静けさに消えた、そのとき。
――キャハハハハハハハハハハハッ!
甲高い子供の笑い声と、騒がしく走り回る足音が、扉の外からけたたましく響きわたった。
「ヒイィ……ッ」
領主が顔をこわばらせ、蹴られた豚のような情けない声を上げる。
アスラも「いやっ、何なの……!?」と短い悲鳴を上げて、窓の方へ後ずさった。
その間も子供の笑い声は響く。
上からも、下からも。――そして。
ふっ、と。
小さな風の音と共に、部屋の中に一つだけ灯っていたランプの炎が消えた。