アルマクと幻夜の月
驚愕して言葉を失うアスラに、イフリートは淡々と言う。
「それを金に替えたところで、薬代の百分の一にもならないぞ」
「……なんだよ、それ」
困惑するような、憤るような、自嘲するような。
そんな複雑な笑みを浮かべ、アスラは言った。
わざわざ隠し通路を使って、一人で夜の街へ来て。
見知らぬ男に殴られて、挙げ句の果てにすべて無駄だった。
「ばかみたいだ」
そうつぶやいて、アスラは水差しを倒れている男の側に置くと、元来た道を歩き出した。