アルマクと幻夜の月
「どこへ行く」
イフリートが尋ねる。
「決まってる」
振り返らずに、アスラは答えた。
「帰るんだよ」
「王宮にか?」
その言葉に、アスラは思わず振り返り、イフリートをまじまじと見た。
「なぜ、王宮だと?」
アスラの身分はもちろん、名も名乗っていないはずなのに。
「そりゃあ、知っているさ」
〝自称ランプの魔人〟は当然のように言う。
「水差しの中にこもっていたといっても、外の様子はわかる。
水差しがずっと王宮に放置されていたことも、水差しを十年ぶりに拾ったおまえが、アスラ・アルマク第一王女殿下であることも」