アルマクと幻夜の月
「当たり前だ」
ふん、と鼻を鳴らして、馬が――イフリートが答える。
――いったいこの事態を当たり前と思える人間がこの世に何人いるのか。
そう思ったが、アスラがそれを口に出す前に、「おい」と呼びかけられた。
「舌を噛むなよ」
どういうことかと、問う間もなく。
イフリートが地を蹴ったその瞬間、アスラを乗せた馬はものすごい速さで空へ舞い上がった。
頭上からのしかかる空気に押され、アスラは馬のたてがみにしがみつく。