アルマクと幻夜の月


馬はみるみるうちに夜空を駆け上がる。

やがて地上の衛兵が点に見えるほどの高さまで来た頃、イフリートはようやく上昇を止めた。


「空から行けば、衛兵にも見つかるまい。このままこっそり部屋へ戻れば、おまえが王宮の外へ出たという証拠は残らない。

あとはいくらでも言い訳ができるだろう」


連れて帰ってやるからつかまっていろ、というイフリートの言葉に、アスラはすこし目を開き、それからまぶたを伏せた。


「……王宮に帰るのか」


その言葉に、イフリートは首をめぐらせてアスラを見た。


「……? どうした? 帰らないのか」


「いや、……帰るよ、もちろん」


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