僕を止めてください 【小説】
僕は風を避けるために屋上を後にした。階段を降りながら、僕はまた隆のことを考えていた。
(お前を永遠に愛していたかった…)
永遠に誰かのことを愛し続けたい。でもそれって…結局死ぬまで、ということなんだよね。それは永遠とは言わないんじゃないか?
一生、という言葉がたぶん正しい。やっぱりそれにも始まりがあって終わりがある。この世の理の中にある“長い有限”のことなんだと僕は思考の前提を修正した。それなら狂気しか連れていけない永遠ではなく、淋しさを抱えながら誰かと生きていく、普通を選べばいいだけのことだ。僕が隆を見ないから、僕が条件の中に入っているから、死という選択が現れてくるんだ。だって隆は、本当はずっと愛されたいんだから。
それでも隆はあの壁を打ち破らないとどんな先へも行けない。もともとは隆はそんな壁はなかったはずだ。だから自衛隊時代のトラウマさえ解消すれば、その問題は解決するんじゃないかと僕は思った。そうすれば、僕よりずっと年上の人をただ新たに好きになればいいだけだ。僕である必要はない。それを隆はわかっているんだろうか。それをわかっていれば本当に僕はもうなにもすることはなくなる。
すべてが僕がいないほうがいいという方向を指している。早く僕から気持ちが去ってしまうのを確かめて、すぐに僕がいなくなるのが一番いい。そして、カウンセリングでもセラピーでもちゃんと受けて、トラウマを解消して、隆の本来の人生を歩んでいけばいい。
望みを叶えればいい。
なにかが僕の中で収束した。理由も行為もすべて合理的な結論に納まった。うん。そうだ。これでもう隆から大事な何かを奪わずに済む。
気がつくと僕は1階の出口にいた。出口だ、隆。もう苦しまないで欲しい。僕はそのまま敷地を歩いてフェンスの破れ目から外に出た。そろそろ家に帰ろうと思った。