僕を止めてください 【小説】



 僕はいきなり思考の中に引きずり込まれていた。思えばそれはある意味、穂苅さんに揺さぶられたのと似たようなショック状態だったのかも知れない。外側の変化に伴って、いつも僕は“どのように他人と(生きている人と)関わるか”という問題に直面させられる。そして毎度お馴染みの自問自答が繰り返される。まるでそれは“野生動物と共生していくには?”とか“戦わないガンの延命治療”とか“危険な外来昆虫の駆除と防疫の指針”などといった、抗いがたい力を持った自然の野蛮な動向に対応するための、死んだ負け犬のシンポジウムみたいな様相を呈する。シンポジウムといっても討論者は僕独りなのだが。

  まず整理しよう。外側が騒乱していても基本が変わらないことをまず確認しなければ。つまり、僕に関わってくる人達を傷つけたくない。でも僕が関わると死んでしまう。だから皆と関わらないようにこの世界でひっそりと過ごす。ただし、それは外界からは理解されない。これは単なる同じ確認の繰り返し。

「僕は死神だからです」

 そう言い続けて、自分でもそう思い続けてあの日まで来た。穂苅さんと会う日までは。もう誰とも関わりたくない。そもそも興味がない。それは最初からずっと思っている。そう、佳彦が僕に関わって以来、関わる前からずっと変わらない。これもルーティンな確認。

「邪魔なんです。僕は静かに死んでいたい」

 いや、変わったのか。興味がないのは変わらない。だけど誰とも関わらないほうがいいというのは、僕が誰かと関わって培った結論だ。

(望んでないんだろ? 人の死を)

 僕は穂苅さんのその言葉にあの時うなずいた。だがそれは穂苅さんに言われる前からずっと思っている。隆にいつも言っていたように、僕は生きているものが壊れていくところを見たいわけではないのだ。だが穂苅さんの提案は混乱の始まりだ。その混乱に終止符は打つために僕は再び決意した。また外への扉を閉じ、叶うかどうかもわからない“願い”と称される神秘主義に身を委ねろという、穂苅さんのご意見との折衷案を僕は立てた。
 その折衷案上で、この畳み掛けるような“人に関われ”というメッセージの連続が展開されている。まるで獲らぬ狸の皮算用というやつだ。願いが叶うというアテもないのに、皆は無意識に期待しているんだろうか。まるで僕が人間関係の扉を開く予定が決まっていて、それはもうそろそろ可能になるとでも言わんばかりの勝手な楽観主義的プレッシャーを感じた。






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