僕を止めてください 【小説】




 屍体にしか興味がないのに医大に行ったのは、法医学のせいだった。

 何が原因かわからなかったが、僕は小さい頃から生きているものを求めなかった。動物や植物のみならず、次第に道具や機械、乗り物、挙句の果てには家や街に至るまで、僕は機能の止まったものに執着した。屍体、剥製、ドライフラワー、押し花、壊れた機械、捨てられた舟、廃墟…そんなモノ、風景や写真集を飽きずに観ていた。だが、僕の人生をそこから大きく変えたものは、中学生の時に知り合った、近所の図書館の司書が“個人的に”貸してくれた一冊の写真集だった。

 生きた人間に興味のない僕は、友人も作らず、両親にもあまり関心がなく、ひとりっ子で兄弟もなく、いつも独りで行くところといったら自転車で5分のところにある図書館だった。そこにいた男性の司書はいつも本の受付を担当していたが、僕は話しかけられるまで、その存在すら意識していなかった。

 










 
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