僕を止めてください 【小説】


 帰宅して彼は熱い風呂に入り風邪は免れたようだった。夕食前に『死体解剖で怪奇現象が起きるホラー映画』を、ああでもないこうでもないとお互い好きなことを言いながら観て、夕食を二人で食べ、食後に『死体に異常な関心を示すサイコパス青年と連続猟奇殺人犯の攻防のサイコスリラー映画』を、ああでもないこうでもないとお互い好き勝手を言い合いながら観た。
 屍体関連の本はよく読んでいたが、映画やドラマはあまり観たことがなかった。清水センセは映像系が趣味なだけあって、そういう映画を山ほど知っていると言った。

「法医学者で趣味が同じ人とこの映画を一緒に観られるなんて!」
「僕は映画を人と一緒に観たことがほとんど記憶にないので、新鮮でした」
「どう? こういう時間の過ごし方って、君の感覚では」
「……面白かったですが」
「ほんとに?」
「独りで観るのはちょっと面倒ですが、清水センセと観ると、いろいろとコメントを言い合えるので有意義です」
「僕は高校と大学時代にサークルとか例のネット本屋の関係でこういう知識を溜め込んでたよね。楽しんでくれて嬉しいなぁ」

 そう言うと清水センセはまたもじもじしながら僕に尋ねてきた。

「あの、えっと……また他の映画とか一緒に観てくれるかな? 一緒に観たいのがまだ何本かあってさ。今日の、めっちゃ楽しかったんだ」
「良いですよ。また観せて下さい」
「ああ……そんなことしていいんだ……幸せすぎてクラクラしてくる」
「自殺の屍体がキャスティングされてないのをお願いします」
「確かに」
「あと音をもう少し小さくしてもらえれば」
「音うるさかった? ごめんね」

 そして、その日もまた一緒のベッドで寝た。清水センセは昨日よりも緊張が解けていて、壁と一体化することはなかった。 

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