僕を止めてください 【小説】
再会
寺岡さんからの電話が鳴った。僕は約束通り、新幹線の改札口が見える在来線の改札の外側でその電話を取る。午前中から晴れていて、旅には良い天気だった。陽が当たっても昼近いのに0℃なので雪は融けない。
「はい、岡本です」
「もしもし? 裕? 着いたよぉ! 近くにいるの? なんか笑っちゃうよ!」
「ちゃんと来てますから。あ、寺岡さん、見えた」
「え〜? 見えてるの? どこどこ?」
長い冬のコートの裾をひるがえし新幹線の改札を抜けた寺岡さんは、黒っぽい小型のスーツケースをゴロゴロ引っ張りながらスマホを耳に当ててスタイリッシュにこちらに向かってくる。しばらくキョロキョロした後に、僕の姿を見つけたらしく、めちゃくちゃ可笑しそうに笑いながらスマホを持ったその手を高く挙げてブンブン振った。元気そうで何よりである。僕は電話を切った。
「裕じゃーん!」
在来線の改札を挟んで僕は軽く会釈した。あまりにも久しぶりの寺岡さんの実物に、なにか照れくさくて言葉が出てこない。切符が自動改札機に飲み込まれると同時に寺岡さんが急にこっちに向かって走り出し、その直後、僕はものすごい勢いで抱きしめられていた。見捨てられたスーツケースは慣性の法則で少し円を描いて転がったところで止まった。
「わ」
「泣きそう。もう大人だねぇ、裕」
僕を見上げた寺岡さんの眼が本当に少し潤んでるのを見て、恥ずかしくてどぎまぎしながらも僕もなぜか胸が詰まった。
「……今月で29ですよ」
10年振りの再会の最初の言葉はそれだった。
「はい、岡本です」
「もしもし? 裕? 着いたよぉ! 近くにいるの? なんか笑っちゃうよ!」
「ちゃんと来てますから。あ、寺岡さん、見えた」
「え〜? 見えてるの? どこどこ?」
長い冬のコートの裾をひるがえし新幹線の改札を抜けた寺岡さんは、黒っぽい小型のスーツケースをゴロゴロ引っ張りながらスマホを耳に当ててスタイリッシュにこちらに向かってくる。しばらくキョロキョロした後に、僕の姿を見つけたらしく、めちゃくちゃ可笑しそうに笑いながらスマホを持ったその手を高く挙げてブンブン振った。元気そうで何よりである。僕は電話を切った。
「裕じゃーん!」
在来線の改札を挟んで僕は軽く会釈した。あまりにも久しぶりの寺岡さんの実物に、なにか照れくさくて言葉が出てこない。切符が自動改札機に飲み込まれると同時に寺岡さんが急にこっちに向かって走り出し、その直後、僕はものすごい勢いで抱きしめられていた。見捨てられたスーツケースは慣性の法則で少し円を描いて転がったところで止まった。
「わ」
「泣きそう。もう大人だねぇ、裕」
僕を見上げた寺岡さんの眼が本当に少し潤んでるのを見て、恥ずかしくてどぎまぎしながらも僕もなぜか胸が詰まった。
「……今月で29ですよ」
10年振りの再会の最初の言葉はそれだった。