僕を止めてください 【小説】
「はい。タクシー乗り場こっちです」
「案内よろしくぅ! うわっ、寒っ! 白っ!」
久しく乗らなかったタクシーに二人で乗り込むと、寺岡さんは運転手に行き先を告げた。白い景色がスッと動き出す。
「思ったより元気そうで良かった」
「元気そうだったことなんかありましたっけ?」
「微細な振り幅ですけどね、私はその違いのわかる男だよ」
「ああ……確かに見抜かれてましたっけ」
「うんうん、そんな日もあったね」
そう言って寺岡さんは遠い目をした。
「なんか不思議な感じ。裕と二人で知らない街でタクシー乗ってる」
「僕も現実感皆無です」
「だよねー」
「この街は来たこと無いんですか?」
「うん。たまたま、学会でも来てないな。南の○×市には行ってるけど」
「あそこは大きなコンベンションホールありますからね。僕も法医学の学会で行きました」
「ああ、そっか。そんな話をするのか! 裕と!」
なにか一言言うたびに、寺岡さんは興奮しながら感慨にふけりまくっている。
「空白の10年ですからね」
「お前が言うかぁ? 空白作ったの誰よ」
「僕です」
「ねぇねぇ、なんかさっきっから素直でびっくりするんだけど。丸くなってるの? 大人のコミュニケーションだよこれ!」
寺岡さんは本当に驚いたような口ぶりで僕の受け答えを評価した。
「はぁ」
「……まぁ、そうなるか。素直になったからこうやって会えてるんだもんな」
「ですね」
「ピンチ様様だな」
「まぁ、そうです。白旗ですから」
「あーもう、裕の白旗好き好き大好き」
寺岡さんはタクシーの中も構わず、僕の首に腕を回して頭を撫で回した。
「ちょ…首はマズいです首は」
「あっそうだった! 悪い! 忘れてた。忘れるもんだな……ごめん」
「ああ……まぁ良いです。なんか落ちても結局死なないし」
「とはいえ、だよ。いつどうなるかわかんないしね。ごめん。でもさぁ、このやり取りすら懐かしくて涙出ちゃいそう」
そんなことをしてる間に、車はヴィラ・ヌエヴォの豪華な正面玄関に着いていた。運転手がトランクから出したスーツケースをポーターが受け取って部屋まで運んでいく。そんなホテルを使ったことがない僕は、若干この建物に入ることに気が引けていた。
「案内よろしくぅ! うわっ、寒っ! 白っ!」
久しく乗らなかったタクシーに二人で乗り込むと、寺岡さんは運転手に行き先を告げた。白い景色がスッと動き出す。
「思ったより元気そうで良かった」
「元気そうだったことなんかありましたっけ?」
「微細な振り幅ですけどね、私はその違いのわかる男だよ」
「ああ……確かに見抜かれてましたっけ」
「うんうん、そんな日もあったね」
そう言って寺岡さんは遠い目をした。
「なんか不思議な感じ。裕と二人で知らない街でタクシー乗ってる」
「僕も現実感皆無です」
「だよねー」
「この街は来たこと無いんですか?」
「うん。たまたま、学会でも来てないな。南の○×市には行ってるけど」
「あそこは大きなコンベンションホールありますからね。僕も法医学の学会で行きました」
「ああ、そっか。そんな話をするのか! 裕と!」
なにか一言言うたびに、寺岡さんは興奮しながら感慨にふけりまくっている。
「空白の10年ですからね」
「お前が言うかぁ? 空白作ったの誰よ」
「僕です」
「ねぇねぇ、なんかさっきっから素直でびっくりするんだけど。丸くなってるの? 大人のコミュニケーションだよこれ!」
寺岡さんは本当に驚いたような口ぶりで僕の受け答えを評価した。
「はぁ」
「……まぁ、そうなるか。素直になったからこうやって会えてるんだもんな」
「ですね」
「ピンチ様様だな」
「まぁ、そうです。白旗ですから」
「あーもう、裕の白旗好き好き大好き」
寺岡さんはタクシーの中も構わず、僕の首に腕を回して頭を撫で回した。
「ちょ…首はマズいです首は」
「あっそうだった! 悪い! 忘れてた。忘れるもんだな……ごめん」
「ああ……まぁ良いです。なんか落ちても結局死なないし」
「とはいえ、だよ。いつどうなるかわかんないしね。ごめん。でもさぁ、このやり取りすら懐かしくて涙出ちゃいそう」
そんなことをしてる間に、車はヴィラ・ヌエヴォの豪華な正面玄関に着いていた。運転手がトランクから出したスーツケースをポーターが受け取って部屋まで運んでいく。そんなホテルを使ったことがない僕は、若干この建物に入ることに気が引けていた。