専務が私を追ってくる!




六本木通り沿い、西麻布郵便局近くのバーで、キレイなオレンジ色のカクテルを飲んでいた。

心地よいボサノヴァのリズム。

ズレた間の手を入れるように、数分に一度微かなクラクションの音が聞こえる。

ふと予感めいたものを感じて右に目を向けると、カウンターの右端にいる男が、物憂気に頬杖をついてタバコの煙を吐き出していた。

あ、かっこいい。

口に出してはいないが、そう思ったタイミングで男もこちらを向いた。

濃紺のスーツを着たその彼は、横顔だけじゃなく、正面から見てもかっこよかった。

小振りだがまっすぐで高い鼻とキュッと締まりのある、つややかな唇。

深い二重の瞳に、私は吸い込まれてしまうかと思った。

その顔立ち、タバコを挟んでいる指、座っている姿勢、スーツの着こなし。

この目で見える全ての部分が、私にはドストライクだった。

私の熱い視線に気付いて、「ん?」と笑顔で首を傾げる。

物憂気だった顔は甘味のある優しい顔に一変して、そのギャップが再び私の心を打ち抜いた。

一目惚れとは、こういうことを言うのだろうか。

「ごめんなさい。見とれてました」

正直にそう告げると、彼は照れた顔で笑った。

「そんなこと言われたの、初めてですよ」

これが彼との“本当の”出会いである。

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