専務が私を追ってくる!

私がそう答えると、修はハンドルをコンコン叩いてもどかしさを発散させる。

「どうにかして思い出せないかなー」

「恥ずかしいので思い出さなくていいです」

ていうか絶対に思い出さないで。

「本当に会ってたら、今一緒に働いてるのが運命って感じがして、俺は嬉しいんだけどな」

とびきりの笑顔がこちらを向いて、つい胸がキュンと痛くなる。

私の気も知らないで、運命とか嬉しいとか、簡単に言わないで。

変わりたい。

そのために、恋なんてしたくない。

恋をすると、キレイになりたくなる。

努力が報われてキレイになったら、私は他人を見下す嫌な女に戻ってしまう。

「専務って、意外とロマンチストなんですね」

「えー、意外かな?」

私はそれ以降、意識的に窓の外を見るようにした。

これ以上、彼が私の顔を見られないように。

そしてこれ以上、私が彼を好きになってしまわないように。



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