キスから始まる方程式
「今日は部活の朝練ないの?」
「あぁ、さすがにこれだけ雪が積もってちゃな」
「七瀬んとこは?」
「うちの部は毎日じゃないから、今日はもともとない日」
「ふーん」
そんな他愛もない会話をしながら、雪の中を並んで学校へと歩いて行く。
隣に翔がいると思うだけで、嬉しくてドキドキして……幸せいっぱいだ。
このまま時が止まっちゃえばいいのに……。
翔の横顔を見つめながら、心の中でそっと願う。
けれどそれは、叶うことのない願い。
『ドキドキ』も『嬉しい』も『幸せ』も、そう感じるのはいつも私ばかり。
ずっと昔から……そしてこれからも、変わることのない一方通行の片想いだ。
ならばせめて、時は止まらなくても翔の隣にいるだけでいい。
しかしたったそれだけの願いさえ、今の私にはもう決して叶うことはない……。
やるせない思いが込み上げてきて、翔に触れた右手をギュッと握りしめる。
そんな自分の気持ちを押し込めるように拳をコートのポケットに突っ込むと、まだほのかに温かいホッカイロに指先が触れた。