キスから始まる方程式


ビクッ



肩に触れられ桐生君と視線が交差した瞬間、私の体が反射的に跳ね上がった。



「お前……泣いてるのか……?」

「え……?」



泣いてる……? 私……泣いてなんか……。



桐生君の言葉に、おそるおそる頬に手を伸ばしてみる。


すると、生温かいものが私の細い指先を濡らしたのだった。



「っ!」



途端にカッと頬が紅潮し、恥ずかしさでいっぱいになる。



また泣いてるとこ桐生君に見られちゃうなんて……!



慌てて涙でぐしゃぐしゃになった顔をコートの袖でゴシゴシと拭う。


同時に、桐生君から顔を背けるようにしてその場から逃げ出した。



「あっ、 おいっ! 七瀬!!」



桐生君の焦った声が背後から聞こえてきたが、それを振り払うようにしてがむしゃらに走り続ける。


桐生君からだけでなく、とにかく嫌なこと全てから目を背けて逃げ出したかった。
< 159 / 535 >

この作品をシェア

pagetop