キスから始まる方程式
ビクッ
肩に触れられ桐生君と視線が交差した瞬間、私の体が反射的に跳ね上がった。
「お前……泣いてるのか……?」
「え……?」
泣いてる……? 私……泣いてなんか……。
桐生君の言葉に、おそるおそる頬に手を伸ばしてみる。
すると、生温かいものが私の細い指先を濡らしたのだった。
「っ!」
途端にカッと頬が紅潮し、恥ずかしさでいっぱいになる。
また泣いてるとこ桐生君に見られちゃうなんて……!
慌てて涙でぐしゃぐしゃになった顔をコートの袖でゴシゴシと拭う。
同時に、桐生君から顔を背けるようにしてその場から逃げ出した。
「あっ、 おいっ! 七瀬!!」
桐生君の焦った声が背後から聞こえてきたが、それを振り払うようにしてがむしゃらに走り続ける。
桐生君からだけでなく、とにかく嫌なこと全てから目を背けて逃げ出したかった。