キスから始まる方程式
「七瀬っ、待てよっ」
「はぁっ……はぁっ……」
桐生君が私を追いかけてくる声や足音がどんどん迫ってくる。
それでも私は立ち止まることなく、街灯もろくに無い暗闇の中をただひたすら走り続けた。
しかし、いくら運動神経がよくて足が速いといっても所詮は女の子。
男の子と競ったところで敵うはずがない。
案の定、程無くしてあっさりと桐生君に追いつかれてしまったのだった。
グイッ
「おい、待てってば」
「イヤっ! 離して……っ」
桐生君に手首をつかまれ、それ以上進めなくなる私。
「んなに暴れんなって」
「やだったら!」
なんとかして振りほどこうと暴れる私を見兼ねて、桐生君が私の手首をつかむ手に更にギュッと力をこめた。
「痛っ……!」
私の手首に鈍い痛みが走る。
しかしそれを振り払おうにもあまりに桐生君の力が強く、とても逃れることなどできなかった。
「わかった。もう逃げないから……手、離して……っ 」
「あぁ、悪い……」
私の言葉に我に返ったように、桐生君が慌てて手を離す。
全力で走り疲れ切った私は、それ以上抵抗するのを諦めその場に大人しく立ち止まった。