キスから始まる方程式
「あの……翔?」
私のほうが困って落ち着きなく目を左右に泳がせていると、突然翔が顔を上げた。
―― ザワリ
!?
あれ?今の何だろう……?なんだかものすごく嫌な感じがしたんだけど……。
女の直感とでも言うのだろうか……。
不意に私の胸がなんとも言えない不安でいっぱいになった。
「あのさ……七瀬……」
「えっ?う、うん、なに……?」
私の不安を裏付けるように、今まで見たこともない大人びた表情で話し出す翔。
どうしよう……。なんか……これ以上聞くのが怖いっ……。
逃げ出したくなるような張りつめた空気に、真夏の暑ささえ忘れてしまう。
やがて緊張の糸をプツリと切るように、意を決した顔の翔が小さな声で呟いた。