キスから始まる方程式
「…………」
「…………」
私と桐生君の間に沈黙が流れる。
やがてその沈黙を破るように、ゆっくりと桐生君が口を開いた。
「人を好きになるのに理由なんてねーし、時間なんてもっと関係ねーよ」
「でも……っ」
反論しようとする私を黙らせるように、桐生君が言葉を続ける。
「確かに俺は、風間とお前が一緒にいた時間には到底敵わない。
けど俺は、お前への気持ちがアイツに劣ってるなんて一度も思ったことないぜ」
「っ!」
「お前のこと泣かせてばかりいるアイツに、俺は絶対負けない」
「桐生君……」
ゾクリとするほど真剣な眼差しで、桐生君が私を真っ直ぐに見つめる。
しかしそんな桐生君を素直に受け止めることが出来ずに、再び私は声を荒げた。
「そ、そんなの信じられないよ! だってみんな、平気で嘘つくじゃない」
「俺は、お前に嘘はつかない」
桐生君が真剣な表情のまま、私に近付くように一歩足を踏み出す。
そんな桐生君に気圧されるようにして、私はじりじりと後ずさった。