キスから始まる方程式
「やっぱり無理だよ……。 翔も桐生君も、絶対みんないつか私から離れてっちゃうっ」
「俺は、何があっても絶対お前のそばを離れない」
「だって……絶対なんて……どうしたってありえないよ……」
不意に私の脳裏に、幼い日に翔と交わした約束が浮かぶ。
『じゃあ約束だよ! いつか絶対結婚しよーねっ』
『うんっ、約束! 絶対、ぜーったい忘れないでね……―― 』
“絶対忘れないで”と固く誓い合ったはずなのに、年月を重ねるごとに翔の中ではどんどん約束は風化され、いつしか忘れ去られてしまったではないか……。
私の中にどうにもやりきれない気持ちがこみ上げてきて、胸のリボンを握りしめ唇を強く噛みしめた。
「俺はアイツとは違う。俺を信じろ……!」
「っ!!」
ドクンッ
桐生君が放つ鋭い視線と言葉に、苦しくて張り裂けそうだった胸をギュッと鷲掴みされたような感覚にとらわれる。
追いかければ追いかけるほど、どんどん遠くなって行く翔。
対照的に、本当は翔に言ってほしかった言葉を次々に私に与えてくれる桐生君。
翔がいなくなる不安と、隙間風が吹きこんで寂しかった心に、止める間もなく桐生君にどんどん無断で押し入られ不安になった心がごちゃ混ぜになり、急激に何もかもが怖くなる。
気がつくと私は、鞄に大切に閉まっていた指輪に手をかけていた。