キスから始まる方程式
「……っもう……もうやだ……っ」
「? おい、七瀬?」
「こんなのずっと大事にしてて、私バカみたい!
人の気も知らないで……みんなみんな……大っ嫌いっ!!」
「っ! やめろっ! 七瀬っ!!」
桐生君が懸命に伸ばした手が、指輪を捕らえることができずに虚しく空を切る。
全てが嫌になり自暴自棄になった私が投げた指輪は、音をたてることもなく、静かに土手の数メートル下に広がる河原の草むらへと落ちて行った。
「お……まえ……。あれ……」
「はぁっ……はぁっ……」
指輪が落ちて行った草むらを、驚きに目を見開いた桐生君が呆然と見つめている。
それと並ぶようにして私も、何も考えられなくなった頭のまま肩で息をしながら、目の前に広がる暗闇を見つめていた。
やがて……
ガシッ
「痛っ」
桐生君が悲痛な面持ちで私の両肩をつかんできた。