キスから始まる方程式
「今の、アイツから貰った指輪だろ? ずっと大事にしてたんだろ!?」
「……もういいの……」
「何がもういいんだよっ。ちっともよくないだろ!?」
「あんなの……もういらないのっ。 もう何もかも全部やなのっ!!」
「……バカ野郎っ!!」
「っ!!」
駄々をこねるように否定し続ける私を、今まで見たことがないくらい怖い顔をした桐生君が、思いきり怒鳴りつけてきた。
「もういいなんて言うなよ……。お前が大事にしてきたもん、勢いで捨てちまったりすんなよ……っ」
「……っ」
桐生君……。
私の肩にかけられた桐生君の手が、怒りか、それとも悲壮感からか、カタカタと小刻みに震えているのが伝わってくる。
私の気持ちなんて無視して、最後まで押し切ればいいのに……。
なんで桐生君は時折、翔に対する気持ちを大事にしてくれようとするんだろう……?
以前にも何度か感じた疑問が、再度私の胸に湧き上がってきた。
しかし ――
「……には……」
「……?」
「桐生君には、私の気持ちなんてわかんないよ!」
「七瀬……」
「だからもう……ほっといて!」
「っ! 七瀬!!」
もう何も考えたくない私はそう桐生君に言い放つと、無理やり桐生君の手を振りほどき再び暗闇の中を駆け出したのだった。