キスから始まる方程式
「……ん……。眠れない……」
くるまっていた布団に手をかけ、ゆっくりと上体を起こす。
頭上の棚に置かれている目覚まし時計に目をやると、時刻はまだ午前5時を少し回ったところだった。
「さむっ……」
室内とはいえ、容赦ない冬の寒さが体を襲う。
私はベッドから抜け出すと、手近にあった上着を手に取りブルブルと震えながら袖を通した。
シャッ
窓辺に吊るされたカーテンを勢いよく開けてはみたものの、案の定まだ日が出ておらず外は真っ暗だ。
「指輪……どうなったかな……」
昨日指輪を投げた時と変わらない、切なくなるほど真っ暗な闇を見つめながらポツリと呟く。
勢いで捨ててしまったものの、帰宅してからもずっと気になっていた。
「今日、翔と桐生君に会ったら……どんな顔すればいいんだろ……」
私の中に、昨夜の出来事が蘇る。
翔のことも桐生君のことも、全部がまだ頭の中でグチャグチャに混乱していて、結局一晩たった今も冷静に考えることができずにいた。