キスから始まる方程式
コツン
瞳を閉じて、ひんやりと冷たい窓ガラスに額を当てる。
すると不意に頭の中に、翔との懐かしい思い出が浮かんできた。
「そういえば昔、私が熱出した時に翔が看病してくれたことがあったなぁ……」
あれは確か、私達が小学5年生の夏休みのことだっただろうか。
今日とは真逆の暑い暑い夏の日に、私は風邪をひき熱を出したことがあった。
しかしうちの両親は共働きで忙しく仕事をどうしても休むことができず、病院に連れて行ってもらったあと私はひとりで家で寝ていたんだっけ。
強がって口ではお母さんに「大丈夫だよ」なんて言ってたけど、内心本当はすごく寂しくて心細くて……。
そんな時、翔が心配して看病しに来てくれたんだよね。
この窓ガラスみたいに冷たく絞ったタオルを額に乗せてくれて……すごく気持ちよかったな……。
「でも、翌日すっかり元気になった私とは反対に、今度は翔が熱出しちゃったんだっけ。
私の風邪が見事にうつっちゃって、入れ替わるようにして私が看病しに行ったっけなぁ……」
クスクスと笑いながら、懐かしい遠い日の記憶に思いを馳せる。
けれど……
「もう二度と……あの頃には戻れないんだよね……」
そう思った瞬間、私の瞳から涙が一粒こぼれ落ち、全身から力が抜けてしまったように冷たい床に膝から崩れ落ちた。