キスから始まる方程式


翌日。



「ね~ね~、今月号の『最上階ラブ』見た?」

「うんうん! 見た見た~っ!! んも~海斗が超絶カッコよかったよね!」

「だよねだよね~っ!!」



部活を終えた私が部室で制服に着替えていると、何やら後輩部員達が『月刊・ピュア』を片手に、騒いでいる声が聞こえてきた。


ちなみに『月刊・ピュア』とは、女の子なら誰でも必ず一度は読んだことがある、大人気少女漫画雑誌である。


『ピュア』という誌名とは裏腹に中身は結構過激な部分が多いのだが、そこがまた思春期の女の子の心をくすぐるらしく、ある意味女子中・高生の恋愛バイブル的書物となっている。


中でも、主人公・綾香(あやか)と海斗(かいと)の切ない恋愛模様を描いた『最上階ラブ』は、テレビアニメや映画にもなる程の大人気漫画だった。



『最上階ラブ』かぁ。確かにあれ、すっごく面白いよなぁ。海斗君めっちゃかっこいいし……!



そんなことをぼんやり考えながら着替えを済ませ、何気なくペットボトルの水を口へと運ぶ。



「海斗のために身を引こうとする綾香の手を掴んで、海斗がいきなりキス!」

「キャ~っ!! 私もあんなキスされてみた~い!!」



キ、キスっ!?



「ぶほっごほっ」



“キス”という単語を聞いた途端、昨日の桐生君との甘いキスを思い出した私は、動揺のあまり飲んでいた水を豪快に噴き出してしまった。
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