キスから始まる方程式
「桐生……君……?」
拒絶……された……?
予想外のことに呆然としながら、払われた手をもう片方の手で包み、胸の前でギュッと握りしめる。
「あ……いや……悪い……っ」
桐生君は手を払い除けてしまった自分自身の行為に驚いた様子で、しきりに目を泳がせていた。
こんな桐生君、見たことない……。いったいどうしちゃったの?
それに……私の手も……。
ドクン……ドクン……と不安を告げる鼓動が、胸の前で握りしめた手に伝わり全身へと広がって行く。
払い除けられた手が冷たくて、心も体も凍りついてしまいそうだった。
ここ、教室なのに桐生君に触れようとしたから……なれなれし過ぎるって嫌がられちゃったのかな……。
いくら考えても、他に思い当たる節が一向にみつからない。
どうしたらいいかわからなかった私は、思い悩んだ末ようやくのことで言葉を絞り出した。
「ううん……私こそ……ごめん」
「いや……」
そう言って眉根を寄せ、視線を机に落とす桐生君。
その瞳はもう、編入生に向けられることはなかった。