キスから始まる方程式
「ねぇねぇ、工藤さんは前どこに住んでたの?」
「なんでうちの学校を選んだの?」
「工藤さんすっごく可愛いから、前の学校で彼氏とかいたんでしょ?」
一時限目が終わり休み時間になった途端、予想通り編入生……工藤さんの周りにはたくさんの人だかりができていた。
女子も男子も入り乱れ、工藤さんが質問に答える前に次々と好き勝手に質問をぶつけている。
やっぱり工藤さん、すごい人気だな……。
それを自分の席から憂鬱な気分で眺める私。
べつに工藤さんがモテているから憂鬱なわけではない。
先程の桐生君の態度が、私の心に大きな影を落としていた。
桐生君……やっぱり変だよね……。
チラリと横目で見やると、桐生君は普段は見もしない教科書をパラパラとめくっていた。
しかしその瞳には教科書の内容など映ってはいない。
ただ目で追っているだけ……、まさに“心ここにあらず”という感じだった。
授業中もずっとこんな様子だったし……。本当にどうしちゃったの?
素直に「何かあった?」と聞ければよいのだが、なんとも言えない気まずさと、また拒絶されたら……という不安が相まってそれもままならない。
今朝はあんなに近くに感じたのに、打って変わって今は目には見えない壁のような物が私と桐生君の仲を阻んでいるようだった。