キスから始まる方程式
「久しぶりね、冬真」
キレイな前髪をフワリと掻き上げ、先程の作り笑いとは違う心からの笑顔をその人物に向け工藤さんが呟いた。
……っ! 桐生君!?
「…………っ」
それまでパラパラとページをめくっていた桐生君の手が、工藤さんの声と共にピタッと停止する。
視線は相変わらず教科書に落とされていたが、その瞳の奥は動揺を隠しきれず、戸惑うようにゆらゆらと揺れ動いていた。
「あら? 久々の再会だっていうのに、随分と冷たいじゃない?」
「…………」
ふっと不敵な笑みを浮かべ大きな二重の瞳を鋭く細めながら、工藤さんが体を屈めて黙ったままの桐生君の顔を覗き込んだ。
「まさか、私のこと忘れたなんて言わないわよね?」
「……っ!」
工藤さんの言葉に、一瞬驚いたように目を見開く桐生君。
そして次の瞬間、諦めたようにひとつ小さな溜め息をつくと、ポツリと素っ気なく呟いた。
「……久しぶり、凛……」
桐生君の言葉に、満足気にニッコリと笑う工藤さん。
それを真横で見ていた私は、現状が理解できずにただただ呆然とするばかりだった。