Pair key 〜繋がった2つの愛〜
5. 番外編 -one day-
哀楽に灯火
一人は楽しい。一人は気楽。
一人は自由。一人は希望。
一人は淋しい。一人は孤独。
一人は焦燥。一人は暗闇。
ようやく逃れ着いた安住の地。そこでの新たな生活には、別の苦悩が待ち受けているなんて……希望に満ちた新しい未来ですら、影と隣り合わせの生活だってこと――
あの時のわたしは目の前のことで手一杯で、心も身体も余裕なんてなくて……この苦しみの先には、幸せな未来が待っているのだと、信じて疑わなかった。
今思えば当然のことなのに。光と陰は持ちつ持たれつ……自由で楽しいことの裏側には、耐えるべき苦しみや一人じゃどうにもならない困難、背負うべき責任と果たすべき義務がある。そんなのは珍しくもなんともない……世の中にはこれを困難と感じずに乗り越えている人が、いくらでもいるのだろう。
わたしは人一倍恐がりだけど、人一倍負けず嫌いで強さを求め、人一倍頑張り屋だけど夢見がちの、良くも悪くも平凡な女だったと思う。
だから自由の代償があんなに辛く淋しいものであるなんて……あまりの辛さに警戒心を緩めてまで、誰かと話がしたいと思ってしまうなんて……そんなこと、自分には有り得ないことだって信じてたのに。
(どうしてあんなことをしてしまったのかしら・・・)
今さら過ぎたことを考えても仕方がないとは思うけど、視線を机に落としながら、頬杖をついて薄ぼんやりと昔を思い描いていた。
まだ、あの人と出会う前の、寂しさで壊れそうになっていた自分――
人恋しさに、誰彼構わず愛想を振りまいて、女性にも、男性にも、嫌われまいと懸命に……そのせいで、トラブルになったこともあったっけ。傷付いたこともあったけど、自分で自分を傷付けた……それが一番大きくて、イケないことだったんだと思う。
今なら分かる。あの時のわたしがどれだけ愚かなことをしていたか……
(それもこれも、みんなあの人のおかげかな・・・)
ふふっ、と笑い声を小さくこぼす。それと同時にカチャリと鍵の開く音がした気がして、わたしはハッとなって顔を上げると、パタパタと足音を立てて玄関に向かったのだった――
「孝允さん おかえりなさいっ」
「ただいま、加奈さん」
あなたのその声、優しく名前を呼ばれる度に思う……くすぐったくて心地よく、幸せだなぁって、心から。今日も昨日もその前も、明日も明後日もその次も、ずっと一緒に居られる幸せ……大切にしたいと思ってる。だってわたしが今こうして明るく笑っていられるのも、自然と優しくなれるのも、穏やかな気持ちを保てるのも、この人が側にいてくれるから。
当たり前のように毎日を共に過ごすこと、それがどれだけ有り難く、奇跡に近い幸運なのか……身をもってを知ることとなった日から、わたしの日々は光と希望に満ち溢れてる。深い闇に飲まれることもなく……変わらない愛を育み続けている。
*
鞄を預け、上着を脱いで、ひとまずダイニングチェアに腰掛ける。テーブルの上に用意された御膳を眺めながら、ああ今日も私のために作ってくれただけでなく、待っていてくれたのだなぁと思って……見上げた先に彼女を捉える。
キッチンに入り、こぽこぽと水音を立てながら食事の用意を始める彼女は、部屋着とも寝間着ともとれるゆったりとした衣服を身につけて、結いあげた髪の毛先から雫を時たま肩に滴らせては小さな染みを作っていた。
夏になってからというもの、彼女は時々こうして物ぐさな面を垣間見せた。以前はそうでもなかったように思うのだが、考え事をしているような素振りを多く見かける。だからといって特別な異変があるというわけでもなく……ただ、私の帰りが遅くなってからは、今までにない苦労をかけている気がしてならない――
「おなか空いたでしょう?さ、食べましょ」
「ねぇ、加奈さん」
「ん?」
「髪の毛、濡れてるみたいだけど……大丈夫?風邪を引くよ?」
「あ、ほんとだ……ぼーっとしてて、乾かすの忘れちゃってた。食べ終わったら乾かしてくるね」
「……なにか、考え事でもしてたのかい?」
「ううん、特には……なにも」
「そう……?なら良いんだけどね」
「さてと。今日は夏バテ対策メニューだから、頑張って食べてねっ!」
目と目を合わせて笑い合う。加奈さんの笑顔を見るたびに、優しい心遣いに触れる度に、愛されているのだなぁと実感しては、安堵している私がいた。そんな目に見えた言動が無くとも、私は彼女を思っているし、彼女もまた私を大切に思っていてくれているのだと……解っていても、こうして態度で示される度、安らぎを得る度に、心は温かいもので満たされて、それが無いと口には出さずとも不安に思ってしまうのだった。情けないことにね――
いつまで経っても終わらない。
私は彼女に恋をしているのだろう……何度も、何度でも――
「そういえば今日はね、少し面白いことがあったよ」
「なぁに?どんな面白いこと?」
「松元さんって覚えているかな?私の上司で、以前一度会ったことがある……」
「ああ!あの、ちょっと偉そうで、実際に偉い人ね!ちょっと不機嫌そうなオーラを漂わせてる、たれ目がちで整った顔立ちの……」
「ふふっ、そうそう。よく覚えてるね」
「だってすごく目立ってたもの。周りの人たち、みんな遠巻きにしてたし……でも、孝允さんは全然そんなことなかったよね。やっぱり仲がいいの?」
「そうだね。とても信頼しているかな……本当に、凄い人だよ彼は」
「ふーん……。それで、その松元さんがどうしたの?」
「ああ、実は今日、初めて彼の特別な人を紹介されたんだ」
「特別な人って、もしかして女の人?」
「御名答」
「……彼女?あ、奥さん!?」
「まだ結婚はしてないみたいだよ」
「ということはもうすぐ結婚しそうなんですね。その二人」
「多分ね」
「どんな人だったの?松元さんの恋人って」
「歳は加奈さんと同じくらいじゃないかなぁ……明るくて、初対面でも物怖じせずにハキハキと話す感じの良い子でね。背は少し加奈さんより高いかな」
「ふぅん……可愛かった?」
「そうだね、雰囲気が加奈さんに似ていて……可愛らしい人だと思ったよ。たぶん気が合うんじゃないかな?」
「いいなぁ……わたしもいつか会ってみたいな。会えるかな?」
「披露宴には呼んでもらえるだろうから、二人が結婚するならその時に必ず会えるよ」
「え、いいの?わたしも結婚式に一緒に行って……周りの人になにか言われない?」
「平気さ。何しろみんなの方が加奈さんに会いたがってるからね」
「そうなの?どうして?」
「どうしてだろうね……何故だか同僚達は、私の結婚相手というものが想像できないらしいよ」
(ええ……それで会って、幻滅されちゃったらどうしよう)
「大丈夫だよ。加奈さんは今のままで十分……綺麗で可愛くて優しくて、料理上手で床上手な私の自慢の妻だからね」
「な、なんで思ってたことが分かるの!?それに最後の床上手って……!それはちょっと違……」
「ああ、勿論。それは私だけが知っていれば良いことだからね……誰に言うつもりも無いから安心して?」
真っ赤になって俯いてしまった加奈さんを眺めながら、温かい夕飯を口に運んだ。食事の後には風呂に浸かって一日の汗と疲れを洗い落す。しかし今夜の我々は、寝る前に再び汗をかくことになるのだろうなと……そんな予感が頭をよぎった。
可愛い奥さんを目の前に、日ごろの寂しさを埋めてやらねばなるまいと、ふっと笑みを浮かべては、思い描いて待ち望む。
愛しき人との大切な一時。抱きしめる度に満ち溢れる、明日を生きる活力と、昨日を凌ぐ最上の安らぎ――
*
「あっ、そういえば……」
「……どうしたの?」
「わたしと歳が同じくらいってことは、松元さんとその愛音さんって人、かなり年齢差があるんじゃないかなぁ?もしかして……」
「そうだね。たぶん、少なく見積もっても10は離れていると思うよ?」
「じゃあ、わたし達よりも離れてるのかな?」
「そうかもしれないけど……それがそんなに重要なことなのかな?私に抱かれながらも考えなければならない程に?」
「だ、だって……」
「駄目だよ加奈さん。他の人のことを考えているなんて、イケない子だね君は……」
(――――っ……!)
* * * * *
「ねぇねぇ、俊哉さんっ」
「……なんだ」
「さっきの人、小泉さん…だっけ?すっごい美人。男の人だけど、女の人みたいに綺麗だよね~羨ましい!」
「ふんっ、まあお前がいくら背伸びしたところで小泉君には敵うまいな……」
「むっ……その言い方はちょっとヒドイ。けど本当にその通りかもしれないから悔しいような悲しいような・・・小泉さんって彼女いないのかな?!もしいたら自信なくして大変そう……」
「残念だったな、彼は既婚者だ」
「へー…そうなんだぁ……意外。奥さんってどんな人なんだろう。会ったことある?」
「前に一度。二十歳そこそこの娘だったか……名は確か加奈と言ったな」
「……珍しいね。俊哉さんが一度しか会ってない、しかも仕事とは関係のない、女の人の名前を記憶してるなんて・・・もしかして、美人だった?」
「まぁな、それなりに。小泉君が選ぶだけのことはある」
「若くて綺麗な人妻に見とれてたわけだ~!やっぱり俊哉さんもそこら辺の男の人と変わらないんだね。やらしー…」
「馬鹿馬鹿しい、私はそんな低俗な理由で人を見ぬ。あれは彼女がお前に似通っていたか…っ……何でもない」
「え……わたしに似てたの?その綺麗な奥さんが?」
「……………」
「ふふ、いつか会ってみたいなぁ……その人に」
「縁があればな」
「うん!そうだねっ」
一人は自由。一人は希望。
一人は淋しい。一人は孤独。
一人は焦燥。一人は暗闇。
ようやく逃れ着いた安住の地。そこでの新たな生活には、別の苦悩が待ち受けているなんて……希望に満ちた新しい未来ですら、影と隣り合わせの生活だってこと――
あの時のわたしは目の前のことで手一杯で、心も身体も余裕なんてなくて……この苦しみの先には、幸せな未来が待っているのだと、信じて疑わなかった。
今思えば当然のことなのに。光と陰は持ちつ持たれつ……自由で楽しいことの裏側には、耐えるべき苦しみや一人じゃどうにもならない困難、背負うべき責任と果たすべき義務がある。そんなのは珍しくもなんともない……世の中にはこれを困難と感じずに乗り越えている人が、いくらでもいるのだろう。
わたしは人一倍恐がりだけど、人一倍負けず嫌いで強さを求め、人一倍頑張り屋だけど夢見がちの、良くも悪くも平凡な女だったと思う。
だから自由の代償があんなに辛く淋しいものであるなんて……あまりの辛さに警戒心を緩めてまで、誰かと話がしたいと思ってしまうなんて……そんなこと、自分には有り得ないことだって信じてたのに。
(どうしてあんなことをしてしまったのかしら・・・)
今さら過ぎたことを考えても仕方がないとは思うけど、視線を机に落としながら、頬杖をついて薄ぼんやりと昔を思い描いていた。
まだ、あの人と出会う前の、寂しさで壊れそうになっていた自分――
人恋しさに、誰彼構わず愛想を振りまいて、女性にも、男性にも、嫌われまいと懸命に……そのせいで、トラブルになったこともあったっけ。傷付いたこともあったけど、自分で自分を傷付けた……それが一番大きくて、イケないことだったんだと思う。
今なら分かる。あの時のわたしがどれだけ愚かなことをしていたか……
(それもこれも、みんなあの人のおかげかな・・・)
ふふっ、と笑い声を小さくこぼす。それと同時にカチャリと鍵の開く音がした気がして、わたしはハッとなって顔を上げると、パタパタと足音を立てて玄関に向かったのだった――
「孝允さん おかえりなさいっ」
「ただいま、加奈さん」
あなたのその声、優しく名前を呼ばれる度に思う……くすぐったくて心地よく、幸せだなぁって、心から。今日も昨日もその前も、明日も明後日もその次も、ずっと一緒に居られる幸せ……大切にしたいと思ってる。だってわたしが今こうして明るく笑っていられるのも、自然と優しくなれるのも、穏やかな気持ちを保てるのも、この人が側にいてくれるから。
当たり前のように毎日を共に過ごすこと、それがどれだけ有り難く、奇跡に近い幸運なのか……身をもってを知ることとなった日から、わたしの日々は光と希望に満ち溢れてる。深い闇に飲まれることもなく……変わらない愛を育み続けている。
*
鞄を預け、上着を脱いで、ひとまずダイニングチェアに腰掛ける。テーブルの上に用意された御膳を眺めながら、ああ今日も私のために作ってくれただけでなく、待っていてくれたのだなぁと思って……見上げた先に彼女を捉える。
キッチンに入り、こぽこぽと水音を立てながら食事の用意を始める彼女は、部屋着とも寝間着ともとれるゆったりとした衣服を身につけて、結いあげた髪の毛先から雫を時たま肩に滴らせては小さな染みを作っていた。
夏になってからというもの、彼女は時々こうして物ぐさな面を垣間見せた。以前はそうでもなかったように思うのだが、考え事をしているような素振りを多く見かける。だからといって特別な異変があるというわけでもなく……ただ、私の帰りが遅くなってからは、今までにない苦労をかけている気がしてならない――
「おなか空いたでしょう?さ、食べましょ」
「ねぇ、加奈さん」
「ん?」
「髪の毛、濡れてるみたいだけど……大丈夫?風邪を引くよ?」
「あ、ほんとだ……ぼーっとしてて、乾かすの忘れちゃってた。食べ終わったら乾かしてくるね」
「……なにか、考え事でもしてたのかい?」
「ううん、特には……なにも」
「そう……?なら良いんだけどね」
「さてと。今日は夏バテ対策メニューだから、頑張って食べてねっ!」
目と目を合わせて笑い合う。加奈さんの笑顔を見るたびに、優しい心遣いに触れる度に、愛されているのだなぁと実感しては、安堵している私がいた。そんな目に見えた言動が無くとも、私は彼女を思っているし、彼女もまた私を大切に思っていてくれているのだと……解っていても、こうして態度で示される度、安らぎを得る度に、心は温かいもので満たされて、それが無いと口には出さずとも不安に思ってしまうのだった。情けないことにね――
いつまで経っても終わらない。
私は彼女に恋をしているのだろう……何度も、何度でも――
「そういえば今日はね、少し面白いことがあったよ」
「なぁに?どんな面白いこと?」
「松元さんって覚えているかな?私の上司で、以前一度会ったことがある……」
「ああ!あの、ちょっと偉そうで、実際に偉い人ね!ちょっと不機嫌そうなオーラを漂わせてる、たれ目がちで整った顔立ちの……」
「ふふっ、そうそう。よく覚えてるね」
「だってすごく目立ってたもの。周りの人たち、みんな遠巻きにしてたし……でも、孝允さんは全然そんなことなかったよね。やっぱり仲がいいの?」
「そうだね。とても信頼しているかな……本当に、凄い人だよ彼は」
「ふーん……。それで、その松元さんがどうしたの?」
「ああ、実は今日、初めて彼の特別な人を紹介されたんだ」
「特別な人って、もしかして女の人?」
「御名答」
「……彼女?あ、奥さん!?」
「まだ結婚はしてないみたいだよ」
「ということはもうすぐ結婚しそうなんですね。その二人」
「多分ね」
「どんな人だったの?松元さんの恋人って」
「歳は加奈さんと同じくらいじゃないかなぁ……明るくて、初対面でも物怖じせずにハキハキと話す感じの良い子でね。背は少し加奈さんより高いかな」
「ふぅん……可愛かった?」
「そうだね、雰囲気が加奈さんに似ていて……可愛らしい人だと思ったよ。たぶん気が合うんじゃないかな?」
「いいなぁ……わたしもいつか会ってみたいな。会えるかな?」
「披露宴には呼んでもらえるだろうから、二人が結婚するならその時に必ず会えるよ」
「え、いいの?わたしも結婚式に一緒に行って……周りの人になにか言われない?」
「平気さ。何しろみんなの方が加奈さんに会いたがってるからね」
「そうなの?どうして?」
「どうしてだろうね……何故だか同僚達は、私の結婚相手というものが想像できないらしいよ」
(ええ……それで会って、幻滅されちゃったらどうしよう)
「大丈夫だよ。加奈さんは今のままで十分……綺麗で可愛くて優しくて、料理上手で床上手な私の自慢の妻だからね」
「な、なんで思ってたことが分かるの!?それに最後の床上手って……!それはちょっと違……」
「ああ、勿論。それは私だけが知っていれば良いことだからね……誰に言うつもりも無いから安心して?」
真っ赤になって俯いてしまった加奈さんを眺めながら、温かい夕飯を口に運んだ。食事の後には風呂に浸かって一日の汗と疲れを洗い落す。しかし今夜の我々は、寝る前に再び汗をかくことになるのだろうなと……そんな予感が頭をよぎった。
可愛い奥さんを目の前に、日ごろの寂しさを埋めてやらねばなるまいと、ふっと笑みを浮かべては、思い描いて待ち望む。
愛しき人との大切な一時。抱きしめる度に満ち溢れる、明日を生きる活力と、昨日を凌ぐ最上の安らぎ――
*
「あっ、そういえば……」
「……どうしたの?」
「わたしと歳が同じくらいってことは、松元さんとその愛音さんって人、かなり年齢差があるんじゃないかなぁ?もしかして……」
「そうだね。たぶん、少なく見積もっても10は離れていると思うよ?」
「じゃあ、わたし達よりも離れてるのかな?」
「そうかもしれないけど……それがそんなに重要なことなのかな?私に抱かれながらも考えなければならない程に?」
「だ、だって……」
「駄目だよ加奈さん。他の人のことを考えているなんて、イケない子だね君は……」
(――――っ……!)
* * * * *
「ねぇねぇ、俊哉さんっ」
「……なんだ」
「さっきの人、小泉さん…だっけ?すっごい美人。男の人だけど、女の人みたいに綺麗だよね~羨ましい!」
「ふんっ、まあお前がいくら背伸びしたところで小泉君には敵うまいな……」
「むっ……その言い方はちょっとヒドイ。けど本当にその通りかもしれないから悔しいような悲しいような・・・小泉さんって彼女いないのかな?!もしいたら自信なくして大変そう……」
「残念だったな、彼は既婚者だ」
「へー…そうなんだぁ……意外。奥さんってどんな人なんだろう。会ったことある?」
「前に一度。二十歳そこそこの娘だったか……名は確か加奈と言ったな」
「……珍しいね。俊哉さんが一度しか会ってない、しかも仕事とは関係のない、女の人の名前を記憶してるなんて・・・もしかして、美人だった?」
「まぁな、それなりに。小泉君が選ぶだけのことはある」
「若くて綺麗な人妻に見とれてたわけだ~!やっぱり俊哉さんもそこら辺の男の人と変わらないんだね。やらしー…」
「馬鹿馬鹿しい、私はそんな低俗な理由で人を見ぬ。あれは彼女がお前に似通っていたか…っ……何でもない」
「え……わたしに似てたの?その綺麗な奥さんが?」
「……………」
「ふふ、いつか会ってみたいなぁ……その人に」
「縁があればな」
「うん!そうだねっ」