Crescent Moon



心配をかけたい訳じゃないの。



でもね、私にだって譲れないものがある。

変えられない気持ちがある。


結婚に関してだけは、妥協しない。

妥協なんてしたくない。


それだけは、きっとこれからも変わらない。



頑としてお見合いの話を受け入れようとしない私を見て、お母さんは渋々だけれど断りの電話を入れてくれた。



「私は、まだ諦めてないのよ。またいいお話があったら、お受けするつもりよ?」


毅然とした態度でそう言って、出かける支度を始める母親。


あー、始まった。

またどうせ、お隣さんのとこに行くんだ。


分かりやすい行動に、こちらの方が溜め息が出た。



(いちいち、そんなことまで話しに行かないでよ………全く。)


ダメになったお見合いだって、母親にとっては格好のネタ。

娘の恥をネタとして、お隣さんとの話に花を咲かせるつもりなのだ。


お隣さんが羨ましいクセに、身内の恥も晒す。

母親というのは総じて世間話が好きで、嫉妬深い生き物だ。


私には、理解出来そうにない。



そそくさと、母親に再び捕まらないうちに実家から逃げ出す。


帰り道で、ふと思った。



そういえば、もう何年、彼氏がいないんだっけ?


指折り数えて思い出す。

思い出せなくなるほど、遠い過去のことじゃない。



前の彼氏と別れたのは、3年前。

私が、25歳の頃だったはず。


上手くいかずに離れていった恋人を、瞼の裏に蘇らせる。



(もし、あの時、別れていなかったら………)


今頃、どうなっていたのだろうか。

今頃は、当たり前の様に結婚していたのだろうか。


これほど、結婚というものに悩むこともなく。



もしもーーー………


あの時、違った決断をしていたら。

あの時、別れずにいたら。


今、私の目は、違う景色を見ていたのだろうか。



もしも、なんてありはしない。

こんなことを考えていたって、意味がないのだ。



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