Crescent Moon



分かっていても、考えてしまった。


ありもしない、未来のことを。

存在すらしなかった、未来のことを。



過去は取り戻せない。

過去はやり直せないし、やり直せたとしても、私はまた同じ選択肢を選んでしまうだろう。


別れたことも、後悔なんてしていない。



だけど、考えてしまう。

ふと立ち止まって、思ってしまう。


年を重ねれば重ねるほど、後ろを振り返りたくなるなんて不思議だ。










ジリリリリと、けたたましいアラームの音が、狭い部屋にこだまする。

ゆっくりとまだ重たい瞼を押し開ければ、そこに広がるのは見慣れた小さな部屋。


ここは実家ではなく、私が1人で暮らしているアパートだ。

大学時代から住んでいる、住み慣れた部屋。


今では、私の一部みたいになっている空間なのだ。



6畳一間のフローリングの部屋には、様々な物が置かれている。


液晶テレビに、HDDレコーダー。

1人用のシングルベッドに、小さなガラステーブル。


昨日飲んだビールの缶が転がっているのは、見なかったことにしておこう。



(あー、今日から仕事だ………。)


社会人の休みなんて、短いものだ。

長い休みをもらえていたあの頃が、今ではすごく懐かしい。


ぼんやりとした頭で今日から仕事であることを思い出し、ノロノロと起き上がる。



汗臭いし、シャワーでも浴びよう。

熱いシャワーを浴びれば、目もしっかり覚めるはず。


熱いシャワーの後は、コーヒーをブラックで。



朝は、どうにも苦手だ。

低血圧なせいもあって、なかなかすっきり起きられない。


朝ご飯なんて、食べて出ることの方が珍しいと言えるだろう。

朝ご飯を食べる時間があるのなら、私は1分でも長く寝ていたいタイプだ。



一通り、朝の儀式を済ませ、ハンガーにかけてあるスーツに袖を通す。

スーツを着れば、そこにいるのはだらけた28歳の女じゃない。


これは、私の制服の様なもの。



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