Crescent Moon



(こんな男、この学校にいたかな………?)


記憶の中をどれだけ探ってみても、私の記憶の中には目の前のこの男は刻まれてなどいない。


今日から、新学期だ。

今日からこの学校に来る生徒だって、いるかもしれない。

もしくは、新入生という可能性もある。



(誰なの、一体………転校生?)


転校生か新入生ならば、この学校のことなんて何も知らないだろう。

在校生なら近付きもしないこの場所に、迷い込んでしまったのだ。


何もないこの場所は、辺鄙な場所だ。

ベンチさえないのだ。



そうか。

転校生か。


だったら見慣れない制服らしき物を着ているのも頷けるし、迷い込んでしまったことにも納得出来る。

新入生だというなら、うちの学校の制服を着ているはず。



(なーんだ、変なこと見られちゃったな………。)


正体がおおよそ分かってしまったことで、妙な罪悪感が湧き上がるから不思議だ。


何も悪いことはしていないのに、気まずさを感じるのは何故か。


ああ、そうか。

一応敷地内は禁煙ということになっているのに、屋上で煙草を吸っているせいか。



(あーあ、せっかくの煙草なのに………な。もったいなーい。)


この子が告げ口するかどうかは分からないけれど、このまま目の前で煙草を吸い続けるのは得策とは言えない。

第一、目の前にいるのはまだ子供なのだ。


未成年の前で、助長するかの様に煙草なんて吸えないだろう。



(いくら愛煙家でも、そこまで人間として終わってないわよ………私だって。)


ジュッと音を立てて、いつも持ち歩いている携帯用の灰皿に煙草の火種を押し付ける。


もったいないという気持ちは捨てきれないけれど、こればっかりはしょうがない。

諦めも肝心だ。


まだまだ吸えていたはずの長い煙草は、呆気なくその火を消されていく。



(教え子の前で吸うのは嫌だしなー。昼休みまで、我慢するか………。)



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