Crescent Moon
パーマのかかった、フワフワの栗色の髪の彼女の前で、私は止まった。
「瀬川先生、おはようごさいます。………また一服ですか?」
煙草を吸う仕草を真似て、栗色の髪をなびかせながら彼女がそう言う。
同僚の中でも1番仲のいい彼女は、私の行動パターンなんて何でも知っている。
朝、学校へ来て、何をしているのかくらいはお見通しってことだ。
「ちょ、ちょっと………内緒なんだから!環奈、他の人に言ったらどうなるか、分かってるんでしょうね?」
環奈に限ってバラすとかはないと思うけれど、釘を刺しておく。
もちろん、他の先生方には聞こえない様に小声で。
内緒話なのだ。
聞かれてしまっては、元も子もない。
目の前にいる、誰よりも女の子らしい女の子。
彼女の名前は、藤崎 環奈[フジサキ カンナ]。
同僚とは言っても、同い年ではない。
私よりも3つ年下の、25歳だ。
25歳とは言えども、言われなければ彼女の年齢を当てることは難しいだろう。
10代と言っても、まだ十分通じるくらいの若々しさが環奈にはある。
老け顔だと言われる私とは、正反対に位置する女と言えるだろう。
環奈の担当科目は、音楽。
有名な音大を経て、教職に就いたらしい。
入ることがそもそも難しい音大は、私でさえ知っているほどの難関受験校だ。
パッチリ二重の愛らしい目元。
体型はスリムなのに、出るとこは出ている。
背も小さくて、雰囲気はまるでどこぞのお人形さん。
羨ましくなるほど、私には持っていないものを全て持ち合わせている環奈。
そんな彼女は、この学校のアイドル的な存在だ。
ここで働く先生にとっても、そして、もちろんここに通う男子生徒にとっても。
私よりも後に赴任してきた環奈とは、いわば同じ職場での先輩と後輩の様な関係。
性格も真逆。
容姿も、全く似ていない。
全てが真逆と言えるのに、いつも気が付いたら隣にいるのはどうしてだろう。